次々と燃え上がった。 52

神の矢は九日間にわたって全軍を襲い続けた。

十日目にアキレスは兵士たちを広場に集めた。彼にこの考えを起こさせたのは、次々と倒れるダナオイ勢を見て哀れんだ、腕の白い女神のヘラだった。兵士たちが集まってきて一同が揃ったところで、足の速いアキレスが立ち上がって話し始めた。

「アガメムノン殿、もしも戦争と疫病でアカイア人がこのまま殺され続けたら、仮に死を免れたとしても、我々は目的を遂げずに国に帰ることになると思う。だからもうこの辺で、予言者か神官か、あるいは、ゼウスが夢を送られたのなら、夢占い師にでも尋ねてみようではないか。きっと、どうして光の神アポロンがこれほどお怒りなのかを明らかにしてくれるはずだ。おそらく、我々が誓いを破ったからか、それとも犠牲の式典に不満を抱いておられるからだろう。もしそうなら、最高の子羊と山羊の犠牲をお供えすれば、我々を破滅の淵から救って下さるかも知れない」 67

アキレスはこう言うと腰を下ろした。すると一座の中からテストリデスの子カルカスが立ち上がった。カルカスといえば他に抜きんでて優れた予言者で、現在過去未来の全てに通じた男だった。光の神アポロンから授かった予言の術によって、アカイア人の船をイリオスの地まで導いたのもこの予言者だ。いまこの予言者が兵士たちの窮状を哀れんで立ち上がると、次のように言ったのである。

「アキレス殿、あなたは弓の名手アポロンの怒りのわけを、私に言えとおっしゃっているのであろう。では申し上げてもよいが、その前に一つ約束してもらいたいことがある。あなたに、自ら進んで、口先だけでなく体を張ってでも私の身の安全を守っていただきたいのだ。なぜなら、私は、みんなの支配者でアカイア人の大将を勤める御方を怒らせてしまうことになりそうなのだ。我らのように身分の低い者は王者の逆鱗に触れてはひとたまりもない。その場はどうにか無事に切り抜けても、後で必ずしわ寄せが来るものなのだ。どうです、あなたに私の身の安全を守り通す気がおありかな?」 83

それに答えて足の速いアキレスはこう言った。

「大丈夫です、カルカス殿。勇気を出して、あなたが神様から教わったことを存分におっしゃって下さい。ダナオイ勢のためにあなたが神託を授かっておられる、神アポロンにかけて、私の目の黒いうちは、この船のそばにいるダナオイ勢のうちの誰であろうと、あなたには指一本触れさせないことを誓います。たとえあなたのおっしゃっているのが、アカイア人の王だとしきりに自分で言っているアガメムノン殿のことであっても、同じことです」 91

そこで有名な予言者カルカスは勇気を出してこう言った。

「神がお怒りなのは、我らが誓いを破ったからでも、犠牲の式典に不満を抱いておられるからでもない。アガメムノン殿があの神官をないがしろにして、身代金の受け取りを拒否して、娘を返してやらなかったためなのだ。弓の名手アポロンが我らに災いをもたらしているのはこのためだ。美しい目をしたあの娘を、身代金をとらずに無条件で父親の元に返してやり、クルセーの神殿で犠牲の式典を催さない限り、神はダナオイ勢を恐ろしい破滅の淵から救って下さることはない。神が怒りを和らげて、我々の願いを聞き入れて下さるのはそれからのことだ」 100

カルカスはこう言い終えると腰を下ろした。すると一座の中からアトレウスの子、アガメムノン王が憮然として立ち上がった。彼の心には激しい怒りが渦巻き、目は燃え盛る炎のように輝いていた。彼は最初にカルカスの方を恐ろしい


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